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コラム
パーパス経営とは?MVVとの違い、重要視されている理由について、時代背景を踏まえて理解しよう
社会を構成する一員としての企業の存在を意識し、どのように社会に貢献するかを定め、企業活動を行う「パーパス経営」。
自社の利益だけを追い求めるのではなく、地球環境や社員などのステークホルダー、そして社会のよりよい未来を共に作る姿勢が企業に求められる現代、このパーパス経営は企業を経営する上で欠かせない要素となっています。
今、このパーパス経営が注目を集めている背景には、具体的にどのような理由があり、各企業はどのようなパーパスを掲げているのでしょうか。
このコラムでは、パーパス経営について、その意味や重要視されている背景などについて、わかりやすく解説します。
パーパス経営とは?
パーパス経営とは、それぞれの企業が掲げた「パーパス」に基づいて企業活動を行うことです。パーパス(purpose)とは、元々は「目的、意図、目標、趣旨」などと訳される英単語です。転じて、ビジネスシーンにおけるパーパスとは、その企業の社会における存在意義、企業活動を通じて成し遂げたい志などの意味で用いられています。
自分たちが何のために存在するのか、従業員は何のために働くのか、そして社会課題の解決にどう貢献するのかを明文化し、それを軸にした経営がパーパス経営といえるでしょう。
ビジネスの世界においてパーパス経営が脚光を浴びるようになったきっかけは、2019年8月、アメリカの大手企業からなるロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、「企業のパーパスに関する声明(Statement on the Purpose of a Corporation)」を発表したことです。
声明では、以下の5つについて各企業がコミットすることを宣言し、企業は株主利益の最大化だけでなく、パーパスの実現に向けた経営をしていくべきだと提言しています。
・顧客に価値を提供すること
・従業員に投資すること(利益還元や教育サポート、多様性の尊重など)
・サプライヤーと公正かつ倫理的に取引すること
・地域の人々、環境を尊重し地域社会を支援すること
・株主に対する長期的な価値を生み出すこと
それまでの株主資本主義からの脱却を意味するこの声明は、ビジネスの世界に大きなインパクトをもたらし、これを機に、日本でもパーパス経営が浸透するようになったと言われています。
パーパス経営とMVVの違い
パーパス経営とよく混同されるのが、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)です。
MVVとはそれぞれ以下になります。
・Misson(ミッション)
その企業の存在意義や使命。何のためにその商品やサービスを世の中に提供しているのか、何を目的としているのか果たすべき役割を言語化したもの。
・Vision(ビジョン)
将来こうありたいという、企業が目指す理想像。企業がミッションを達成した結果として実現するであろう、将来の社会のありようや、組織としての自分たちの姿を具体的に描き言語化したもの。
・Value(バリュー)
その企業がどのような価値観を大切にしているのかを明確にし、日々の業務でどのように行動するかを明文化したもの。例えば、チームワークを大切にする、スピードを重視するなど、社員が業務を遂行する上で必要となる行動指針。
特にミッションはパーパスと近く、いずれも企業の存在意義や目的を明文化している点は同じといえます。
あえて異なる点を挙げるとすると、パーパスは「対社会」という視点を強く持っているところが違いといえるでしょう。パーパスには、どのように社会課題の解決をしていくか、自社の顧客に閉じず社会にどう貢献していくのか、という意識が必要とされます。
ミッションは必ずしもそうした視点に立ったものとは限りませんが、社会の課題解決をミッションに掲げている企業も多く、その場合はミッションとパーパスは必然的に同じような内容となる可能性があります。
いずれにしても、企業がそれぞれの存在意義、果たすべき役割を明文化したものが「ミッション」「パーパス」と呼ばれている、というものなので、「こうでなければならない」とあまり形式ばって考える必要はありません。
とかく、ビジネスの世界においては、時代に合わせたそうしたキーワードが次々と誕生し、注目を集めます。「定義に従ってパーパスを策定する」という表面的な対応ではなく、なぜ今パーパスが注目されているのか、パーパスに関する声明が出された背景には何があったのか、そうした本質を読み解き、今の時代に企業がどうあるべきかを考えることが大切です。
今、なぜパーパス経営が重要視されているのか
企業の在り方に新しい価値観をもたらしているパーパス経営ですが、なぜ今、このパーパス経営が重要だとされているのでしょうか。
時代背景、人々の意識の変化などが複雑に絡み合い、その理由は単純ではありません。ここでは、そのいくつかを挙げ、パーパス経営が重要視される理由を紐解いていきたいと思います。
CONTENTS
- 1.持続可能な世界が求められているから
- 2.企業の姿勢が、顧客の選択に、より大きな影響を与えるようになったから
- 3.事業の成長、企業の価値向上に不可欠な要素となっているから
持続可能な世界が求められているから
時代のキーワードとして、日本においても馴染みある言葉となったサステナビリティ(持続可能性)。企業経営においても、持続可能性は重要な要素の一つであり、パーパス経営と並んで「サステナビリティ経営」という言葉もよく目にします。
持続可能な世界とは、「私たちみんなが、ひとつしかないこの地球で暮らし続けられる」(日本ユニセフ協会「SDGsって何だろう?」より引用)世界のこと。
持続可能な世界を作るためには、人々や組織がその趣旨を理解し、社会を構成する一員としてそれぞれが目的に沿った役割を担う必要があります。仮に、利益ばかりを優先し、自然環境や従業員への配慮を欠いた事業運営をする企業ばかりとなってしまったら、持続可能な社会を実現することは難しくなってしまうでしょう。
現代における企業は、自社の売上をアップし株主に利益を還元するだけではなく、持続可能な世界に向け、課題解決に貢献する存在となることが求められています。
こうした背景から、環境、社会、ガバナンスに配慮する「サステナビリティ経営」とあわせて、課題解決に志を持って挑むパーパス経営が今、重要視されています。
企業の姿勢が、顧客の選択に、より大きな影響を与えるようになったから
パーパスに掲げるような企業の志、事業活動を行う上での理念等は、顧客の選択にも影響してきます。
その企業は、CO2削減に配慮した方法で商品を製造しているか、多様性を尊重し、従業員に対し公正に活躍の機会を与えているか…。そうした企業の一つひとつの姿勢は、顧客が商品やサービスを選ぶ際の判断基準にもなっているのです。
例えば、トレンドを反映したファッションをリーズナブルな値段で提供し人気となっていたファストファッションブランドが、商品を生み出すために、低賃金・長時間などの劣悪な労働環境を従業員に強いていたことが問題視され、不買運動が起きたことがありました。
物があふれる時代、人々は「モノ」ではなく「コト」や「ストーリー」を選ぶとも言われます。どんなに良い商品・サービスを提供していても、それが生み出される過程や、提供元である企業の理念に共感ができなければ、顧客はそれらを選ばなくなってきています。
企業が掲げるパーパスは、企業の中だけではなく、外に対してもその姿勢を示すものです。
社会とのつながりを無視した経営をしている企業は、市場や顧客からそっぽを向かれてしまい、存在することができなくなります。
顧客に選ばれる企業となるためにも、パーパス経営が必要だと言えるでしょう。
事業の成長、企業の価値向上に不可欠な要素となっているから
かつては、「環境への配慮」や「社会貢献」などは、企業にとってコストであり、多くの場合、事業戦略や利益向上、企業の成長とは切り離した存在、時には相反するものと認識されていました。外部向けの資料などでも、以前は「企業価値の向上と、社会貢献を両立させます」といったニュアンスの表現が多く、そうしたフレーズからは、「共に並び立つことが難しいけれどがんばってどちらもやる」、という意識が伺えます。
しかし、現代においては、パーパスを軸とした経営、社会とのつながりを意識した企業活動は、事業戦略や利益向上に直結する要素です。
「ESG投資」や「なでしこ銘柄」など、投資の世界でも企業の姿勢や理念を見る動きがありますが、環境に配慮している、女性の活躍を推進している、というだけでは、それらの投資に値するものとはみなされません。
社会の課題解決をすることが事業戦略の中にどう位置づけられ、利益向上に結び付いているのか、多様性に配慮した人的資本経営を行うことで、どのように企業が成長していけるのかを示す必要があります。それぞれの会社のパーパス経営に代表されるような経営戦略が、企業価値の向上に必要不可欠なものと認識されるようになってきているのです。
例えば、多様性を受け入れ、従業員がいきいきと働ける環境を整備する理由は、「そうしないと社会的な批判を浴びる」からではなく、「そうすることで会社が成長する」からです。人手不足が続く現在、優秀な人材を確保できるかどうかは、実際に企業の成長戦略に大きな影響を与える要素となっています。
パーパス経営は、事業の成長、企業の価値向上にとって、不可欠なものと言えるでしょう。
主な企業が掲げているパーパス
それぞれの企業は、どのようなパーパスを掲げ、経営戦略に結びつけているのでしょうか。
代表的な企業が掲げているパーパスを、ピックアップしてご紹介します。
CONTENTS
- 1.ライオン:「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」
- 2.ソニー:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
- 3.アスクル:『仕事場とくらしと地球の明日に「うれしい」を届け続ける』
- 4.花王:「豊かな共生世界の実現」
ライオン:「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」
歯ブラシや歯磨き粉などでおなじみのライオングループ。公式サイトで「私たちが社会の中でどのような貢献をするために事業を営んでいるのかを明確化して、従業員が同じベクトルを向き、より効率的に目標に向かうことが重要であると考えた」ことがパーパス設定のきっかけだと紹介しています。そして、人々の健康に貢献する習慣作りをマーケットの活性化につなげ、そして事業を構築することがパーパスの実践だとしています。
ソニー:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
ソニーグループでは、パーパスに関する公式動画や、パーパスを元にした社員の活動を紹介するコンテンツを作成し、パーパスの意味するところを内外に発信しています。
現在の会長兼社長CEO の吉田憲一郎氏が就任後、全社員の意見を募りながら作成したもので、パーパスとあわせて「夢と好奇心」、「多様性」、「高潔さと誠実さ」、「持続可能性」というバリューを打ち出しています。
アスクル:『仕事場とくらしと地球の明日に「うれしい」を届け続ける』
オフィス用品などをすぐに届けるEコマースなどで知られるアスクルは、「何のために存在しているのか」(存在意義)をパーパス、「そのパーパス(存在意義)を実現するために持つべき」ものをバリューズ(価値観)、そしてそのパーパスとバリューズを支えているのが「お客様のために進化する」というアスクルの持つDNAだとしています。そして、それぞれの位置づけ、関係性を明確にし、全体をあわせて「時代の変化に適応し変革していくための礎」と説明しています。
花王:「豊かな共生世界の実現」
花王はパーパスを上記のように設定し、さらに花王が提供している各ブランドが、この花王としてのパーパスにつながる「ブランド・パーパス」を掲げています。そして、それぞれのブランドがその特徴を生かし、社会の課題解決を目指した商品展開をしています。
まとめ
パーパス経営は、株主の利益を最優先とする企業活動から決別し、社会とのかかわりを意識し、これからの未来に向けた持続可能な企業の成長を支えるものです。
自分たちがなぜ存在するのか、何のために仕事をしているのか、会社の利益に閉じず、広く社会に目を向けてその存在意義を考えることが、パーパス経営の第一歩となります。
時代の要請を踏まえ、より良い未来に向けて必要不可欠な存在となるために、自社にとって意味のあるパーパスを作り上げていきましょう。
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