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経営者必見、リスクマネジメントとは? 計画策定に必要な実践方法を解説

突然の災害、主要取引先の倒産、幹部の退職、データ流出──。「まさか」の事態に直面したとき、あなたの会社はどれだけ備えができているでしょうか。
ビジネス環境を取り巻く変化のスピードが加速する現代、経営者が対策を講じるべきリスクは急激に増え、そして多様化しています。企業が持続的に成長するために、適切なリスクマネジメントは欠かせないものとなっています。
この記事では、対策を講じる必要があるリスクの具体例、リスクマネジメント計画を策定するための実践ステップなどを詳しく解説します。
企業経営におけるリスクマネジメントとは?

中小企業白書(2016年版)によると、リスクマネジメント(Risk Management)とは、「リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減を図るプロセス」と定義されています。また、経済産業省の「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト」では、先進企業におけるリスクマネジメントの定義として「自社の事業継続を脅かすリスクに対して回避、移転、低減、保有の対策を実施すること」「自社の曝されているリスクに対して、リスクを適切に把握し、評価し、減らすための取組み」などの例が紹介されています。
企業の存続を脅かすリスクにはさまざまなものがあります。特に中小企業は、事業の規模や従業員の数が少ないが故に、一つの問題が経営全体への大きな打撃となりがちです。例えば一つの取引先の倒産や一人の従業員の流出が、経営に深刻なダメージを与える可能性もあります。
それにも関わらず、中小企業は大企業に比べてリスクへの備えが十分ではないと言われます。例えば、帝国データバンクが実施したBCP・事業継続計画(災害などの緊急事態が発生した際、事業が継続・早期復旧できるよう、平常時に取り決めておく計画)に対する企業の意識調査(2025年)によると、大企業ではBCPを策定している企業が38.7%に上るのに対し、中小企業では17.1%にとどまっており、「BCPの重要性が認識されつつも、リソースや専門知識の不足などから中小企業は対応しきれていない状況がうかがえた」と報告されています。
損失を最小限に抑えて事業を継続するためには、中小企業の経営者もリスクマネジメントの重要性を理解し、対応に着手することが必要だと言えます。
経営リスクの具体例

変化の激しいビジネス環境の中、経営におけるリスクは多様化しています。以下に挙げるのは、主に中小企業に関係が大きいと考えられる経営リスクの例です。
- 1.財務リスク:資金繰り悪化、取引先の倒産、投資失敗など。
- 2.法務・契約リスク:契約不履行、コンプライアンス違反、知的財産の侵害。
- 3.人的リスク:従業員の離職、経営者自身の健康問題、後継者不在。
- 4.災害・感染症リスク:地震・水害・感染症拡大による操業停止。
- 5.サイバー・情報リスク:データ漏洩、サーバーダウン、ランサムウェア攻撃。
- 6.経営環境リスク:為替変動、原材料高騰、新興競合の出現、市場の急激な変化。
他にも、考えられるリスクは多岐にわたります。その企業の事業領域や立地地域などによって、特有のリスクも存在します。自身の企業にとってどのようなリスクがあるのか、さまざまな観点で洗い出すことが必要です。
リスクマネジメント計画策定のための実践ステップ

リスクマネジメントの必要性は理解していても、具体的に何から始めれば良いのか、どのように進めるべきかわからない、という経営者もいるのではないでしょうか。リスクマネジメントにはさまざまな方法がありますが、ここでは経済産業省の「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト」を参考に、リスクマネジメント計画を策定するための大きな流れの一例をご紹介します。
CONTENTS
- 1.リスクマネジメントの体制を整備する
- 2.リスクマネジメントの方針を策定する
- 3.リスクを洗い出し、評価する
- 4.対応戦略を決定する(4つの戦略)
- 5.戦略に沿った対策の目標を設定する
- 6.リスクマネジメント計画を策定する
- 7.計画を実務に落とし込み、定期的に見直す)
1. リスクマネジメントの体制を整備する
リスクマネジメントには、従業員一人ひとりの理解と協力が欠かせません。全体で継続的にリスクマネジメントを実施できるように体制を整備し、責任や権限、実務を担う担当者を明確にしましょう。部署をまたいだ横断的な意識共有をはかるために、統括する管理部門やリスクマネジメント委員会などを設けることも有効です。
2. リスクマネジメントの方針を策定する
細かな計画を作る前に、まず全体の方針を策定すると、より全社的なリスクマネジメントが行いやすくなります。企業によってやり方は異なりますが、例えばリスクマネジメントの目的や行動指針、スローガンなどを明文化して掲げることで、社内にリスクマネジメントに対する意識を醸成し、さらには内部だけではなく取引先など外部を含めたステークホルダーに自社の考え方を周知することが可能となります。
3. リスクを洗い出し、評価する
前述したように、企業にとってマネジメントの対象となるリスクの種類は、異なります。そのため、自社の事業や業務内容を最もよく理解している従業員の協力が必須です。トップだけで洗い出しをするのではなく、部署ごとのアンケートやセッションなどを通じて、抜け漏れなく洗い出すことを意識しましょう。
リスクの洗い出しが出来たら、影響度・発生頻度・対応コストなどの観点で評価をします。例えば発生したら重大な影響が出るものでも、起こる可能性が10万年に1度であれば、多額の費用を投じる対策はしないという判断もあるかもしれません。可能な限り定量的に評価することを意識しましょう。
4. 対応戦略を決定する(4つの戦略)
自社が対策すべきリスクが決まったら、対象となるリスクへの対応方針、すなわち戦略を決定します。前述したリスク評価の項目で判断した影響度や発生頻度、自社の方針などにより、とるべき戦略は異なります。
- ・回避(Avoid):リスクの原因を除去する
リスクの発生要因を取り除くアプローチです。例として、不安定な取引先との契約を見直すなどが挙げられます。 - ・低減(Mitigate):影響度や発生確率を下げる
リスクの発生要因を取り除くアプローチです。例として、不安定な取引先との契約を見直すなどが挙げられます。 - ・低減(Mitigate):影響度や発生確率を下げる
インフラやマニュアルの整備などによって、リスクが発生した場合の被害の大きさ・リスク発生の頻度を減らします。 - ・転嫁(Transfer):保険や外部委託などでリスクを移す
損失補償保険の加入や物流の委託など、外部にリスクを分散する選択肢も有効です。 - ・受容(Accept):コスト対効果を見て一定水準までは受け入れる
すべてのリスクを排除するのは非現実的です。影響度が小さく発生頻度が低いものなどは、「受け入れる」判断も経営の一部です。
5. 戦略に沿った対策の目標を設定する
それぞれのリスクに対する戦略が決まったら、そのリスクが発生した場合にどうなっていれば良しとするのか、対策を講じる上での目標を設定しましょう。例えば、以下のような目標が考えられます。
- ・「震度7の地震発生」というリスクに対し「低減(影響度を下げる)」という戦略をとる場合、「1ヵ月以内に平時の生産量の〇%を回復する」という目標を設定する
- ・「従業員の離職」というリスクに対し「低減(発生頻度を下げる)」という戦略をとる場合、「入社3年以内の退職者数を3人以下とする」という目標を設定する
目標も可能な限り定量化することで、リスクマネジメントに取り組みやすくなる上、対策がうまく進捗しているかどうかの評価もしやすくなります。
6. リスクマネジメント計画を策定する
目標を達成するために、具体的に何をするのか、対策の内容を決め、いつまでに誰が何をやるのかを定めた計画を策定します。
対策の内容としては、時系列の観点で以下の三つに分類することができます。
- ・事前対策…リスクが発生する前に、リスクが起きないようにしたりリスクを低減したりするために実施するもの
- ・緊急時対策…リスク発生直後に、被害の最小化や拡大防止のために実施するもの
- ・復旧対策…緊急時の対策のあとに、平時への稼働に早期に復旧させて、二次被害を防ぐために実施するもの
対策の内容は、事業内容や個々の企業のリスクマネジメント戦略により大きく異なります。具体的な対策内容を決める前に、複数の案を比較して多角的に検討しましょう。また、限られた経営資源の中で最大限の効果を発揮する対策を選択できるよう、費用対効果の観点も重要です。
- ・非常用電源、発電機、代替設備の設置
災害時にも最低限の稼働を維持できるよう、電源や機械を二重化しておくことで事業停止リスクを最小限に抑えられます。 - ・ITデータのクラウド化、バックアップ、サイバーセキュリティ強化
データ損失や情報漏洩は企業の信頼を一瞬で失わせます。日次バックアップや多重保存など、情報資産の守りを徹底しましょう。 - ・安否確認システム、備蓄品、通信手段の確保
すべての企業において、従業員の安全確保は最優先事項です。連絡ルートや緊急時対応マニュアルを社内で共有し、定期的に更新を。 - ・防災訓練、リスクマネジメント研修の実施
従業員への継続した教育を実施することで、意識を高めましょう。訓練や研修は実施方法を工夫し、課題を洗い出してその後の計画修正に反映するなど、意味のある内容にすることも重要です。 - ・保証契約や保険の見直し、引当金の積み増し
財務的なリスク管理も大切です。必要に応じて委託契約を新たに結ぶなど、対策を講じましょう。
7. 計画を実務に落とし込み、定期的に見直す
リスクマネジメント計画の策定はゴールではなく、スタートです。日々の業務に落とし込み、全社的な意識を高めながら、着実に遂行することが重要です。必要に応じて、経営計画に反映させることも有効です。人員や予算を確保しやすくなる、社内外に取り組みが理解される、などさまざまなメリットが考えられます。
また、ビジネス環境や事業構造の変化によって新たなリスクが出現したり、技術の進歩でより有効な対策ができるようになったり、リスクマネジメント計画を変更する必要が出てくることも考えられます。見直す頻度をあらかじめ定めておいて、定期的にアップデートしましょう。
まとめ

企業を取り巻くリスクは膨大で、またその内容も日々多様化しています。ケースによっては、一つのリスク発生が企業の存続そのものを脅かす結果を引き起こしかねません。企業が持続的に成長するためにも、経営者としてリーダーシップを発揮し、適切なリスクマネジメントに取り組むことが大切です。
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