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コラム
企業の成長に直結する「健康経営」とは?実施内容、必須とされる社会的背景について解説
企業が従業員の健康を経営的な視点から管理し、戦略を立てて従業員の健康推進を実践する「健康経営」。今なぜ、この健康経営が必要とされているのでしょうか。企業には、具体的にどのような取り組みが求められているのでしょうか。そして、健康経営を実践することで、企業にとってどのようなメリットが考えられるのでしょうか。
このコラムでは、企業の成長に大きく貢献する、そして企業にとって今、必須のテーマともいえる健康経営について、詳しく解説します。
単なる施策の実践だけではない、真の健康経営に必要なもの
経済産業省によると、健康経営とは、「健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践すること」。経営視点に立ち、従業員の心身の健康に配慮したさまざまな施策を行うことが健康経営です。
具体的な実践内容としては、例えば以下のようなものが挙げられます。
- ・従業員の健康状態を把握するための定期的な調査を行う
- ・健康推進のための研修を実施する
- ・健康面を考慮した就業規則を整備する
- ・従業員が運動する機会を提供する
ここでポイントとなるのが、健康経営とは単に上記のような「従業員の健康を考えた取り組みをする」ことだけを指すものではない、という点です。健康経営とは、言葉の通り健康を意識した「経営」。従業員の健康管理を、企業にとって大切な従業員、つまり人的資本に対する投資の一つと捉え、経営戦略として実践することが必要です。
そのためには、企業は前述したような具体的な施策を行うだけではなく、
- ・トップである経営者が健康経営にコミットメントし方針を打ち出す
- ・統合報告書、有価証券報告書などを通じ、戦略や施策内容を発信する
- ・経営層、専門職が参加する組織体制を構築する
- ・実施した施策の効果検証を行う
などを合わせて実施する必要があります。
従業員の心身の健康を守り、健康的な働き方を実現する施策を、いかにして会社の持続的な成長につなげるのか、戦略的に施策を打っていくことが求められます。
求められる「生涯現役」社会、健康経営が必要とされる背景とは
今、なぜ、この健康経営が必要とされているのでしょうか。健康経営が推進される背景には、日本が抱える大きな課題が関係しています。
世界的な長寿大国、日本。平均寿命は2020年時点で男性が81.6歳、女性が87.7歳となっています。一方で、2050年には働くことができる生産年齢人口が約30%減少、約40%が高齢者になると予測されています。
高齢化が進む日本において、経済・社会を維持していくためには、一人ひとりが健康な生活を送り、生涯にわたって仕事や社会参加ができるような「生涯現役」社会を作っていくことが必要です。
私たちが健康的な生活を送り、健康寿命を延ばすためには、家庭などプライベートで過ごす時間だけではなく、働く時間をいかに心身共に健やかに送るかが非常に重要になってきます。
そのため、企業にはこの健康経営、すなわち経営の視点から従業員の健康を考え、従業員の健康増進に向けたさまざまな取り組みを行うことが求められているのです。
健康経営を企業が導入すると、どのようなメリットがあるか
健康経営は、前述したように国を挙げて推進している重要な取り組みです。一方で、それぞれの企業にとっては、健康経営を推進することでどのようなメリットがあると考えられるのでしょうか。主なものをご紹介します。
CONTENTS
- 1.社員のエンゲージメントがあがり、組織が活性化する
- 2.優秀な人材確保、離職防止につながる
- 3.企業の業績、企業価値が上がる
- 4.社会からの評価につながる
社員のエンゲージメントがあがり、組織が活性化する
働く人たちにとって、勤務している会社が自分たちのことを大切にしていると感じることができるかどうかは、エンゲージメントに大きく影響してきます。
例えば、業績だけを重視して、無理な残業や休日出勤を強いたり、従業員の健康状態に無頓着な会社に対し、従業員が貢献しようとやる気をだして働くことは難しいでしょう。
逆に、自分たちが心身の健康を気遣ってもらっている、さまざまなサポートが受けられていると感じることが出来れば、会社に対するエンゲージメントは上がり、仕事のモチベーション向上、ひいては組織の活性化にもつながります。
優秀な人材確保、離職防止につながる
健康経営を実践し、働き甲斐がある職場、いきいきと健やかに働ける場所だという評判が社内外に広まれば、そこで自分も仕事をしたいと考える人も当然ながら増えていきます。
就職先を決める際、昨今の求職者は、給与や仕事内容だけではなく、職場環境やワークライフバランスなどを重要視しています。健康経営の実施は、優秀な人材確保に直結する戦略と言えるでしょう。
もちろん、健康経営は離職防止にも大きな効果を発揮します。退職という結果になる前に、先回りして従業員の心身の健康維持をサポートすることで、従業員はその会社でずっと働き続けたいと思うようになり、定着率が向上することが期待できます。
企業の業績、企業価値が上がる
人材の確保、そして組織の活性化は、事業を推進し、企業の持続的な成長の土台となる大切な要素です。「あの企業で働きたい」と考える多くの優秀な人材が集まり、そしてその人材がいきいきとやりがいをもって働くことは、生産性の向上につながっていきます。既存事業の成長のみならず、イノベーションが生まれ、新しい事業が展開できるなど企業の業績アップに大きく影響するはずです。
前述したように、健康経営は企業にとっての大切な資産、すなわち人的資本に対する「投資」という側面を持っています。体制の整備や施策の実施にはコストや手間がかかることもありますが、それを上回る業績アップが期待できるのです。
また、人的資本という重要な資産が潤沢だということは、企業が将来に向けて成長し続けるポテンシャルを持つことにつながります。健康経営は、業績の向上のみならず、企業価値の向上にも大きく影響します。
社会からの評価につながる
健康経営の取り組み内容は、統合報告書や有価証券報告書などを通じ、社内や求職者だけではなく、社外の顧客や投資家、取引先といった多くのステークホルダーに開示されます。また、経済産業省が、健康経営に戦略的に取り組む上場企業を「健康経営銘柄」として毎年選定するなど(後述)、しっかりとした取り組みが社会的に評価される仕組みも整っています。
過去には、無理な働き方を強いるなど従業員の健康を省みないやり方をしているとして、社会から厳しい批判を受けたさまざまな企業や組織も存在しました。現代において、健康を重視した企業経営をしているかどうかは、企業内部にとどまらず、社会からの評価を大きく左右する重要な要素となっています。
健康を考えた取り組みをしっかりと推進することで、その取り組みが社会から評価され、健康経営に取り組む企業として広く認識されることが期待できます。
健康経営銘柄、企業の取組事例を紹介
経済産業省は東京証券取引所と共同で、健康経営に取り組む上場企業を「健康経営銘柄」として毎年約50社ほどを選定しています。経済産業省によると、この取り組みは「長期的な視点から企業価値の向上を重視する投資家に対して、魅力ある企業として紹介することを通じ、企業による健康経営の取組を促進することを目指して」実施しているもの。要は、この制度がインセンティブとして機能することで、より多くの企業が健康経営に取り組むよう促していると言えるでしょう。
選定基準としては、その会社が従業員の健康管理を戦略的に行う健康経営をどのように取組んでいるか調べる調査「健康経営度調査」の回答を踏まえ、さらに以下の項目が加味されています。
- ・重大な法令違反等がない。
- ・健康経営優良法人(大規模法人部門)申請法人の上位500位以内である。
- ・ROE(自己資本利益率)の直近3年間平均が0%以上または直近3年連続で下降していない企業を対象とし、ROEが高い企業には一定の加点を行う。
- ・前年度回答有無、社外への情報開示の状況についても評価し、一定の加点を行う。
第10回となる「健康経営銘柄2024」では、27業種から53社が選定されました。
一部の企業の取り組み内容をご紹介します。
CONTENTS
- 1.富士フイルムホールディングス
- 2.TOTO株式会社
- 3.ソフトバンク株式会社
- 4.丸井グループ
富士フイルムホールディングス
富士フイルムでは、2019年に「健康経営宣言」を行い、国内グループ各社で健康経営責任者、健康経営推進責任者、担当者を任命、グループ共通のKPIを設定しました。
例えば、1日に平均30分以上歩く、週1日以上お酒を飲まない日をつくるなど、生活習慣病対策として「7つの健康行動」を新設して、グループ従業員に実践を呼びかけています。また、2015年から就業時間内禁煙を推進し、2019年からは月に1回、終日禁煙デーを設置。喫煙者の禁煙支援とともに、会社生活での受動喫煙防止を徹底するため、会社敷地内喫煙所をすべて閉鎖するなど、健康推進に向けたさまざまな取り組みを行っています。
TOTO株式会社
TOTOは、健康管理・メンタルヘルス対策・健康増進(健康づくり)を三本柱とした健康配慮の取り組みを実践し、代表取締役社長執行役員のもと、人事労務担当取締役を責任者として、各拠点のヘルスケアセンターや各事業所総務部門が主導して、社員とその家族の健康管理、健康リテラシーの向上を目指した活動を行っています。
例えば、健康診断結果を閲覧したり、各人の健康状況に応じた記事や重症化予防通知、健保からのお知らせ等を受け取れる「健康ポータルサイト」を2021年度から導入、健康リテラシーの底上げをはかっています。また、心の健康づくりとして、セルフケア・ラインケア(上司によるケア)・産業保健スタッフによるケア・事業場外資源によるケアを推進し、メンタルヘルスケアに関する研修も整備。あわせて「相談窓口カード」の作成など、社員のメンタルヘルスケア対策を充実させています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクでは、「社員一人一人が心身共に健康で常に活力あふれた集団であることを目指します」という健康経営宣言を掲げ、社員の健康を維持・向上させることを重要な経営課題の一つと位置付け、さまざまな取り組みを行っています。施策は「心身の健康づくりに関する基本方針」にのっとり、「健康管理」「安心安全な職場環境」「健康維持・増進」の三つのジャンルで実施しています。
例えば、産業カウンセラーや安全衛生に関する資格を持つ社員が一定の選考とトレーニングを受けた上で、ボランティアとして職場内の身近な相談役となる「ピアサポーター制度」を導入するほか、「パルスサーベイ」を独自開発し、2019年10月より導入、従業員の日々の充実度の把握に努めています。
丸井グループ
丸井グループでは、従業員の「健康」のみをゴールとするのではなく、「Well-being」の視点を通じて新しい価値を創出し、社会全体を「しあわせ」あふれる場所にしていくことを目指し、「Well-being経営」を掲げています。グループ横断の公認プロジェクトとして、2016年に発足した「健康経営推進プロジェクト」を「Well-being経営推進プロジェクト」に改め、さまざまな取り組みをすすめています。
例えば、組織への影響力が大きい役員、部長、課長層を対象に、ワークショップなどを通じてWell-beingへの理解を深める1年間の「レジリエンスプログラム」を作ったほか、ストレスチェックにおける、組織分析の結果を活用し、事業所ごとにワークエンゲージメントを向上させる重点項目に絞って施策を実施しています。
まとめ
健康経営は、企業の生産性向上、持続的な成長に大きく影響するだけではなく、日本の将来に向け、企業として取り組まねばならない重要な課題です。現代において、社員の健康を省みない企業は存在していくことが難しいとも言えるでしょう。
健康経営は貴重な人的資本に対する投資です。一人ひとりの心身の健康、企業が目指す未来の姿をしっかりと考慮し、戦略的に実践していくことが求められます。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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