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経営者のバーンアウトとは?知っておきたい原因と回復のステップ

2025.10.03 経営者Tips

経営者のバーンアウトとは? 知っておきたい原因と回復のステップ

休みなく働いて疲労がたまり、過度なストレスにさらされ続け、そして気が付いたら仕事への意欲が失せて無気力になっている……そんな状態になったことはないでしょうか。「休んでいる暇がない」「誰にも弱音を吐けない」と、常に厳しい環境でビジネスの最前線に立つ経営者は、心身ともにすり減ってしまう危険があります。今、そうした経営者の「バーンアウト(燃え尽き症候群)」が問題となっています。

経営者のバーンアウトとはどのようなもので、どんな要因が影響しているのでしょうか。そして、再び情熱を取り戻しトップとして意欲的に仕事に立ち向かうためには、何が必要なのでしょうか。

この記事では、経営者がバーンアウトに陥る原因や典型的な症状、バーンアウトかな?と感じた際に必要な具体的な対処法などについて、わかりやすく解説します。

バーンアウト(燃え尽き症候群)とは?

バーンアウト(燃え尽き症候群)とは?

─ 情熱を注いできた人ほど陥りやすい「燃え尽き症候群」

「バーンアウト(Burnout)」とは、心理学者ハーバート・フロイデンバーガーによって提唱された概念で、それまで精力的に仕事をしていた人が、まるで燃え尽きたように急に仕事をしなくなったり、働く意欲を失ったりする状態を指します。

特に経営者は、組織のすべてを背負う立場ゆえに、休みなく働き、問題を抱え込み、心身ともにストレスをためがちです。2018年に信用中央金庫が全国の信用金庫の取引先15,650社を対象に行った調査によると、経営者の3割以上が週の労働時間について60時間以上と回答しています。また、中小企業庁の「小規模企業白書(2020年)」によると、例えば非製造業で従業員の数が1人から5人の企業経営者では、36.0%、3人に1人以上が日常的な相談相手について「いない」と回答しています。

これらの調査結果からは、長時間労働が恒常化し、問題が起きても誰にも相談できず、心身ともに疲弊している経営者が少なくないことが推測されます。

経営者のバーンアウトのよくある症状

経営者のバーンアウトのよくある症状

バーンアウトと考えられる主な症状としては、社会心理学者のマスラックが開発した「マスラック・バーンアウト・インベントリー(MBI)」が有名です。この中では、「情緒的消耗感・脱人格化・個人的達成感の低下」という3つの症状が挙げられ、バーンアウトが定義されています。

  • ・情緒的消耗感
    仕事を通じて、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態
  • ・脱人格化
    周囲の人に対して人間的な振る舞いが減り、相手の人格を無視した紋切り型の対応になる
  • ・個人的達成感の低下
    仕事に対する有能感、達成感が低くなる

その後、このMBIをもとに、日本の研究者が日本の状況に合うように新たに項目の追加・削除をし、「日本版バーンアウト尺度 17 項目」が作成されました。

それによると、以下の症状に多く当てはまる人はバーンアウトの可能性が高いと考えられます。

  • ・こんな仕事、もうやめたいと思うことがある。
  • ・こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある。
  • ・同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある。
  • ・自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。
  • ・1日の仕事が終わると 「やっと終わった」 と感じることがある。
  • ・出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある。
  • ・同僚や患者と、何も話したくなくなることがある。
  • ・仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。
  • ・仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。
  • ・今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。
  • ・体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。

逆に、以下の症状により当てはまる人はバーンアウトの可能性が低いと考えられます。

  • ・われを忘れるほど仕事に熱中することがある。
  • ・この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。
  • ・仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある。
  • ・今の仕事に、心から喜びを感じることがある。
  • ・仕事が楽しくて、知らないうちに時間がすぎることがある。
  • ・われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。

これらは、主に人と接するサービス業に従事している人を想定しており、企業経営者を直接の対象として考えられたものではありません。かつては、人と直接コミュニケーションを取る職業の人がバーンアウトに陥りやすいとされていましたが、近年は、それ以外の職業でもバーンアウトになる可能性が指摘されています。

また、MBIの3つの症状の中でも、特にバーンアウトの主たる症状とされているのが「情緒的消耗感」です。内面的な問題、いわゆる「情緒の消耗」が引き金となり、副次的に脱人格化や個人的達成感の低下を引き起こすと考えられています。

経営者がバーンアウトしてしまう要因

経営者がバーンアウトしてしまう要因

バーンアウトには、主に「個人的な要因(性格やストレス耐性など)」と「環境的な要因(過重労働や多岐に渡る業務、役割の曖昧さなど)」の二つがあると考えられています。

CONTENTS

  • 1.個人的要因
  • 2.環境的要因

個人的要因

一般に、真面目でひたむきに仕事に取り組む人や、責任感が強く多くの仕事を自分で成し遂げようとする人、さらには仕事に対して自分は完璧でなければならないと考える人ほど、バーンアウトしやすい傾向があります。また、バーンアウトする人の中には、プライベートと仕事の境界線をはっきりと引かず、休みの日も常に仕事のことを考えてしまう人も多いと言われています。

環境的要因

過重な負担はストレスを引き起こし、バーンアウトの主要な要因になると考えられています。過重な負担というのは、長時間勤務などの「量」だけはなく、仕事の難易度など「質」にも注意が必要です。さらに、業務の責任範囲が明確ではなく、制限なく頑張ってしまう状況があるなど、「役割のあいまいさ」がストレスに影響するという指摘もあります。

これらを踏まえ、経営者の仕事の特徴や置かれた立場から、経営者特有のバーンアウトの要因を考えてみましょう。

・難易度が高い意思決定を日々行い、思うようにいかない状況にさらされる

経営者は、資金繰りから事業の業績、人材の採用など、数多くの領域を責任を持って判断しなければなりません。従業員のような「担当領域」があるわけではなく、経営者の役割はなにかを考えながら、いわば会社の将来を左右する事柄全てに関わらなければなりません。特に近年では、原材料価格の高騰、円安、人材不足、AIの台頭など、経営環境が劇的に変化しており、経営の難易度も上がっていることが予想されます。真面目でひたむきに仕事に取り組む経営者は、一つひとつのことに真摯に取り組みます。それゆえ、うまくいかない状況に直面するとそれを楽観視できず、大きなストレスを抱えてしまいがちです。

・相談相手が不在で、問題を一人で抱え込む

特に中小企業の場合、トップ一人の意思決定が事業に影響する度合いが大きく、経営者の負担は大きくなりがちです。前述した中小企業庁による小規模企業白書(2020年度版)によると、従業員が1人から5人の製造業で35.5%、非製造業で36.0%、従業員が6人から20人の製造業で27.8%、非製造業で25.5%の経営者が、日常的な経営課題の相談相手が「いない」と回答しています。前述したような多くの経営課題に直面しても、誰にも相談できずに問題を一人で抱え込んでしまうことで、大きな心理的な負担を感じている経営者も少なくないのではないでしょうか。

・仕事とプライベートの境界なく働き、過重労働が常態化している

経営者は一般に、自身の労働時間を誰かに管理してもらうことなく働き、仕事とプライベートの区別もあいまいになりがちです。特に中小企業の経営者は「公私を分けることができない」「家庭と仕事の両立は不可能」などと言われることさえあります。前述の小規模企業白書では、家庭・プライベートとの両立について、企業に雇用されている従業員の48.1%が「大変満足している」もしくは「満足している」と回答したのに対し、小規模企業経営者では44.4%と、4ポイント近く低い結果となっています。

バーンアウトした経営者が再びモチベーションを向上させるためには

バーンアウトした経営者が再びモチベーションを向上させるためには

経営者がバーンアウトに陥ったとき、まず大切なのはバーンアウトしてしまった要因は何かに着目し、環境を改善するなど一つひとつ対処することです。要因に対処してストレスを軽減した後の回復の過程について、バーンアウトによる休職後、実際に克服した人を対象に研究したインタビュー調査(Bernier, D.・1998)があります。この研究では、回復の過程を「問題を認める」「仕事から距離をとる」「健康を回復する」「価値観を問い直す」「働きの場を探す」「断ち切り、変化する」という6つの段階に整理しています。

本研究は従業員を対象に調査しており、休職前と同じ職場に復帰した人がほとんどいませんでした。上記の研究結果を参考に、経営者がバーンアウトした状況から立ち直り、再び情熱を持って経営の仕事に取り組むためには何が必要か、改めて考えてみたいと思います。

CONTENTS

  • 1.バーンアウトに陥った要因、過去の問題を認識する
  • 2.外部の相談先・メンタルサポートを活用する
  • 3.「休むこと」を意識する
  • 4.経営を補佐する人材を育成する

バーンアウトに陥った要因、過去の問題を認識する

仕事に対する意欲の低下が、忙しさからくる疲労によるものだけではなく、自身の内面にも何か問題が起きていることを、まずは認識する必要があります。
経営者は完璧でなければならない、弱音を吐いてはいけないと思い込みがちですが、万能ではなく限界があると自覚すること、無理が生じていることを認めることで、次のステップにすすむことが可能になります。

外部の相談先・メンタルサポートを活用する

厚生労働省の「こころの耳」や「中小企業基盤整備機構(中小機構)」では、経営者や個人事業主向けに無料のメンタルヘルス相談窓口を設けています。また、民間でも「経営者向けカウンセリング」や「エグゼクティブコーチング」など、経営の現場を理解した専門家によるサポートが増えているので、うまく活用し、悩みを打ち明けられる場所を作りましょう。
また、バーンアウトはうつ病など専門の医師による治療が必要な病気と症状が似ていることも注意が必要です。ケースによっては医療機関の受診も検討し、専門家の判断を仰ぎましょう。

「休むこと」を意識する

忙しい経営者も、当然ながら時には休むことが必要です。休息は頭と体の疲労を回復し、思考の質や生産性を高めます。寝不足で疲れ切った状態では、よい経営を続けることができません。重要なのは、スケジュールの中に休める時間を意図的に組み込むこと。「何もすることがない、暇な時間」は経営者は皆無といっても過言ではありません。アポイントを入れないようにスケジュールブロックをする、定期的に仕事をしない日を決めて趣味の予定を入れるなど、意識して休む環境を作りましょう。

経営を補佐する人材を育成する

「休息をとろうと思っても、仕事が…」と、疲労を認識しながらも休むことができない経営者も多いのではないでしょうか。特に中小企業の経営者は、仕事をなかなか任せることができず、全てを一人で抱え込みがちです。経営者一人が会社を動かす状況を脱却するためには、経営を補佐する信頼できる「右腕」を作ることが重要です。
中小企業庁白書(2023年)では、「社内において経営者に続くナンバー2の立場にあり、会社経営を行う上での悩み事が相談できる等、経営者が厚い信頼を寄せる人材」を「右腕人材」と定義しています。そして、既存事業の拡大、新規事業の創出いずれにおいても、9割以上の経営者が右腕人材について「大いに関与した・ある程度関与した」と回答しています。信頼できる右腕人材を育成し、補佐する役割を置くことで、企業の成長にもつながることが期待できます。

仕事の「意味」と「目的」を再定義する

燃え尽きた経営者の多くは、心が消耗し、意欲を失っている状態です。再び前に進むためには、「なぜこの事業を始めたのか」「何のために働いているのか」をあらためて言語化することが重要です。
たとえば、初心を思い出すために創業当時のノートを読み返す、社員や顧客の声を直接聞く──そうした“小さな「原点回帰」を試みるのも、一つの手法です。

まとめ

まとめ

バーンアウトは、真面目に仕事をしてきた人ほど起こりやすいもので、いわば弱さではなく「真剣に走り続けてきた証」とも言えます。大切なのは、心の限界を無視せず、原因と向き合い、早めに対処をすること。自分の内面に起きたできごとを正しく理解し、休息を取り、自分のペースで経営を再設計することが必要です。

時には専門家のサポートなどを受けながら、焦らずに自分と向き合いましょう。

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